耳が、朝ドラが、20代の私を思い出させてくれた。

自分の内側に眠る言葉を引き出してくれるのは、自分の言葉だ
永見 薫 2025.06.01
誰でも

安心したら自分のことを話したくなった

初めまして。私は普段、フリーランスライター・編集者として、主にインタビューをして記事を執筆する仕事をしています。インタビューということは誰かの話を聞くのでことであり、自分のことは話したり書いたりはしません。

この仕事のいいな、と思っているところは自分のことを語らずとも、自分の言葉を書くことができること。誰かの気持ち、誰かの出来事や人生を聞かせていただき、それを私のフィルターを通して言葉にまとめる。私のことを書いていなくても、私の視点、選んだ言葉、切り取り方が私たる要素なのです。

自分のことを話さなくても、じぶんらしさがにじみ出る。それだけで十分だと思っていました。

書くだけではなく、読むことも同じ。誰かの日常や考え方を記した文を読むのがとても好き。ひるがえって自分は自分のことを書くのがずっとずっと嫌でした。誰のためにもならない自分のことを書いたとてなんの役に立つんだ、と。

ところがその気持ちが変わりつつあります。本当に少しずつ少しずつ。固く閉ざしていた心の扉をノックしてくれたのは、私がおそるおそる書いた文を読んでくれた方々でした。

多分私は、安心したいのです。

どんな言葉をつづっても話しても否定しない、批判しない。そういう安心のもとで自分の心の内側にあることを話したい。そう思っている人、私だけではなく、他ににもいるのではないかな。

2023年。私は自主出版としてZINE(リトルプレスとも言う)を制作し始めました。

SNSやインターネットなどに記事やエッセイを書くことは、不特定多数の読者がただよう海に放り投げられること。言いようもない不安が全身を包み込むものです。

ところがZINEはそれとは異なるのです。

読みたいと思った方が手にしてくれる。「これが読みたい」「あなたの視点が知りたい」と安心毛布のように包んでくれる読み手がいる場に、私は心がほどけていったのです。

安心安全の場だったら、私は自分のことが話せるかもしれない。そう思い、同じような想いを持った人たちと共におしゃべりする場が欲しいな、とメールマガジンを始めました。

そんなわけで、まずは小さく月に2日。「自分を探求する」をテーマに、SNSで書きたくはないけど誰かと密やかに話したいことをつづります。お茶を飲みながら一緒に雑談する気持ちで、レターを受け取ってもらえたら嬉しいです。

自分の感覚こそ記憶を呼び起こす

みんな大好き、NHKの朝ドラ。方々から朝ドラの話題を聞くけれど、全くもって見る余裕がなかったのがかつての私であります。

朝は通勤、通学があり慌ただしい。見るといえばニュースや情報番組ばかり。それもちらりと一瞥して家を出るみたいな具合です。


ようやくまともに朝からTVを見るようになったのは(それでもまだ流し見)、私が在宅で仕事をするようになった2020年頃からのことです。


話を朝ドラに戻します。


この春小学生2年生なった我が子は、朝NHKのニュースを見ることが好きで(天気や事件を事細かにチェックする、ニュースオタク)その影響で我が家は毎朝7時からTVのチャンネルは1チャンネルにセット(関東だけ?他の地方はチャンネル番号が違うかもです)。8時前に通学する子どもを送り出してそのまま画面に映っている朝ドラをなんとなく目にするようになったというわけです。

今期の朝ドラは「あんぱん」。アンパンマンの作者であるやなせたかし先生の若かりし頃からのストーリーです(ってやっぱり流し見をしている)。

椅子に座ってじっくり見るより、掃除をしながら、テーブル片付けをしながらなんとなく。

5月のある日のこと。その日は突然やってきました。


めったにないオープニングの瞬間から見ることができて、それもソファーに座りながら、自分の朝ごはんと共にです。

目の前にあるチーズオムレツに気を取られながら耳にする主題歌。その瞬間「あっ」と記憶が蘇るのです。

その日の放映が終わり「あんぱん、主題歌」とググると、RADWIMPSの名前が。

その瞬間、ぶわわぁと20代の頃の記憶が脳内に広がってきました。

「この曲いいよ、好きでよく聞く」と当時付き合っていた彼から教えてもらい聞いたのがRADWIMPSで、その後20代から30代の始めに毎日のように聞いていた曲の数々。

独特のリリーフと、強い世界観を感じる歌詞に惹かれ、日々その声を聞きながら「ひるがえって自分はどうだろう?」と考えていました。

バンドやグループの曲調や音楽の方向性は時代を経ると変わっていくものが常で、彼らも例に問わず曲性が大きく変わり、その後私は曲を聞くことがなくなりました。

ところがあんぱんの主題歌には、過去耳にしていた頃に近いリズムやフレーズが散りばめられていて、私の耳が「どこかで聞いたことがある」とぴくりと動いたのです。

感覚ってすごい。他人のアドバイスも大切だけど、自分の感覚、直感こそなによりもお守りであり、自分のたどりたい道を辿るための道標になる。

耳に残るフレーズと感覚は、どこに収まっているかも忘れていた20代の記憶を引き出してくれました。そういえばあの時はこんなことあったな。こんなことあったかもしれない。という、ぼんやりとした輪郭を。輪郭を確かめるように、私は20代から30代半ばまで綴っていた日記を読み返すまで至ったのです。

すごいね、朝ドラ主題歌。日記を読み返すまでたどり着いた。

当時私は、インターネット上で友人だけに公開する日記を10年以上書いていました。今のような文を書くことを仕事にはしていないため、人に見せることを前提にしたよそゆきの文章ではありません。友達とおしゃべりする延長線で書いている、おしゃべり言葉にあふれた日記。

今で言うLINEでやり取りするようなテンポの「あちゃー」と目を背けたくなる稚拙な言葉ぶりなのだけど、その時も私は一生懸命もがいて、自分の内側にある気持ちを探そうとしていました。

失恋して、もう一生立ち直れる気がしないと鬱っぽくなっていた自分が、もがいて立ち直り、もっと成長したいと切々とつづる想い。

チーム異動した先の上司とうまくいかなくて、どうしたらもっとコミュニケーションがうまく取れるのだろう。話しかけたくても話しかけられなくて、すれ違う。明日にはもう一度タイミングを測って話しかけてみるんだ。諦めない。と苦しみながらも自分を奮い立たせている。

ホルモンバランスを崩していて、日々合う薬を探して奮闘する5年間。やっと合う薬が見つかり、女医さんと「よかったね」と手を取り合い涙した日。

そこに友人たちの励まし、共感などのコメントが溢れている。

15年も経つと、輪郭しか記憶に残っていなかったのだけど、そこには私が確かに苦悩し、喜び、悲しみ、笑い、切々と考え、言葉にして、友人と共有した軌跡が残っていました。

文字数にするとたいしたことはない。ただ、言葉にすることは、自分が今日まで生きてきたこと、考えていたこと、胸に秘めていた想いを残すことができ、そしてまた遠い未来の自分が記憶を辿ることができる一つのキーとなり得るのだな、と。

朝ドラをきっかけに、感覚と言葉は私を旅させてくれた。だから、私はどんな形でもいい。声でも記録でも。自分の内側を記録しておくことを止めたくないのです。

***

※このレターは月2本、毎月1日と15日に配信予定です。1ヶ月の始まり、折り返しとなる15日に自分の内側をふり返る。私にとっても読み手の方にとってもそんな時間となるように願っています。

■ニュース
オンラインショップ情報
居場所について考えるワンテーママガジン『あのひとの居場所』他オンラインショップで販売中です。ぜひご覧ください。
https://kaoru-ngm.stores.jp/

■イベント
6月7日(土)にZINEのお祭り、ZINEフェス東京@浅草に出店
既刊ZINE『あのひとの居場所』のほか、リソグラフで制作した、エッセイなども並びます。お出かけのついでにどうぞお立ち寄りください。
https://note.com/bookcultureclub/n/nd460d9a36da6

直前の情報はSNSにて発信していきます。
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発行人:日々の声 永見 薫
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